遺言の種類
<普通方式>
● 自筆証書遺言
費用をかけずに最も簡単にできるのがメリットですが、書き記しておくべき事項のうち
一つでも欠けたり、文字の加除訂正の方法を誤ったりなどするとその遺言全部が無効とな
ります。
【作成するときの注意点】
① 遺言書の全文、日付、住所、氏名まで遺言者本人が自筆しなければなりません。
タイプやワープロで打ったものや、テープに録音されたものは自筆扱いにならず、
無効になります。
② 日付のない遺言書は無効になります。また、ゴム印で年月日を押したものも無効です。
③ 用紙は便箋など何でも可。筆記用具も特定されていませんが、鉛筆は避けましょう。
④ 遺言書が何枚かにわたるときは、割り印を押します。訂正個所には押印し、遺言文の最後
にも変更した旨を書き、署名・押印します。
⑤ 自筆証書遺言は改ざんされやすいものなので、遺言者は死後、必ず家庭裁判所で検認を
受けなければなりません。
その際、各種書類を取り揃え、相続人全員またはその代理人が家庭裁判所に出頭しなけれ
ばなりません。
【その他有効とみなされるもの】
● 遺言者が他人に手を支えられて書いた場合や、外国語・略字で書いた場合も遺言者の意思
と認められる限り有効
● 署名は戸籍上の氏名に限らず、遺言者が通常使用している雅名や芸名でも
遺言者の同一性が認められれば有効
● 押印は実印でなくとも、認印・三文判でもよい
※ 指印も有効という判例もあるが避けるべき
● 遺言者の「還暦の日」とか、「何回目の誕生日」と書いたものでも
良いとされている
● 公正証書遺言
より確実な遺言書に、公正証書遺言があります。
公証人が作成するので、内容や形式が確実ですし字の書けない人でもつくる事ができ、
死後の検認手続も不要です。
通常は公証人役場で作成しますが、遺言者が病気や事故で身動き出来ない時は、
公証人が出張してくれます。また、原本が公証人役場に保管されるので、
改ざんや紛失のおそれもありません。もちろん、遺言の内容を変更することもできます。
ただし、費用もかかりますし、証人にも内容を知られます。
○ 作成場所: 公証人役場
○ 必要な書類など
① 遺言者と相続人の戸籍謄本
② 不動産の登記簿謄本、固定資産評価証明書、預金通帳、有価証券など
③ 遺言者の実印と印鑑登録証明書、証人は認印
④ 受遺者の住民票
⑤ 証人2人の住所・氏名・職業・生年月日を記載した書面
○ 作成人:公証人(遺言者は証人2名以上を同行します)
○ 作成する時期:いつでもよい
【メリット】
1.遺産分割協議がいらない
相続人同士が話し合い、誰がどの財産をどれだけ貰うかなどを決める遺産分割協議が不要に
なります。
骨肉の争いになった時は遺産分割協議はなかなかうまくまとまりません。また、遺言公正証
書の正本または謄本があれば遺産分割協議を行わないで相続に基づく所有権の移転登記がで
きます。
2.原本は公証役場が保管
手元に保管してあった正本や謄本がなくなっても、公証役場が再発行してくれます。
【公正証書遺言の作成方法】
まず財産の内容と、どんな内容の遺言をするのか整理しておきます。いきなり公証役場に行って公証人に相談しても良いのですが、親身になって検討してもらうためにはまず行政書士に依頼するのが良いと思われます。その上で行政書士に遺言の証人、遺言執行者になってもらうのが良いでしょう。
① 遺言者は証人2名以上と公証役場役場へ行きます。(遺言者が動けないときは公証人が出
張します。)
② 遺言者は証人立会いのもとで、公証人に遺言の内容を話します。
③ 公証人はそれを書き取り、書面にします。
④ 書面にした遺言を、公証人は遺言者と証人に読んで聞かせます。
⑤ 正確なら、遺言者と証人はその書面に署名・押印します。(遺言者が字が書けない場合
は、代わりに公証人がその理由を書きます)
⑥ 公証人が署名・押印して完成します。
原本は、公証役場に半永久的に無料で保管され、正本と謄本は遺言者が所持します。
作成手数料は財産の額などによって決まります。
【遺言執行者について】
遺言が効力を生じた後、その内容を実現するために行う事務・手続きは、遺言の内容にもよりますが多様なものが想定されます。
預貯金や株券等の名義変更等ならまだしも、受遺者への遺産引き渡し、不動産等の登記等々遺言の内容によって、遺言執行に関して法的な専門性を要求されるケースが多々あります。
遺言執行者は、遺言者の遺言によって指定されるか、または遺言者の遺言により指定の委託を受けた者から指定された者がなります。(民法1006条)
また利害関係人の請求によって家庭裁判所により選任されることもあります。(民法1010条)
基本的に遺言執行者がいる場合には、相続人や包括受遺者に代わって遺言の内容の実現を行い、遺贈義務を履行していくことになります。
遺言執行者には、未成年者や破産者以外であれば、人に限らず法人もなることができます。(民法1009条)
遺言執行者が必要になる遺言の内容として、(1)子の認知(民法781-Ⅱ)、(2)相続人の廃除、及びその取消(民法893条、894条-Ⅱ)などが挙げられます。
遺言執行に関しては、法的な専門性を要求される場面も多くありますので、そのようなときに、利害関係のない第三者の立場で公平に遺言を執行してくれる人を遺言執行者に指定しておくのが良いと思います。
遺言執行者がその職務に就きますと、まず財産目録を作成し相続人に交付します。(民法1011条)
そして相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の権利義務を有して(民法1012条)具体的に遺言執行事務を行います。
遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産を処分したり、遺言執行を妨害することができなくなり(民法1014条)、仮に相続人がそのような事をしたとしても、法律上無効となります。(大判昭5.6.16)
このように、遺言執行において、遺言執行者がいれば、遺言者が意図した遺言内容を忠実、公平に実現が期待できますが、遺言執行者の責任と権限は重く強大なため、その選任は慎重を期すべきだと思います。
≪遺言執行者の主な任務≫
1.相続財産目録の調整と相続人への交付
2.遺産の収集・管理・処分等
3.相続財産の交付
4.受遺者への財産交付
5.その他
● 秘密証書遺言
あまり使われませんが、公証人にも内容を知られたくないという時に使われます。
公正証書遺言は安全で確実ですが、どうしても遺言の内容を秘密にしたい場合は、秘密証
書遺言が適しています。秘密証書遺言は、自分で完全な遺言書を作成して、公証人に渡さ
なければなりません。この場合も証人が2名以上必要ですが、内容は秘密にできます。しか
し、公証役場には、遺言書を作ったことしか記録されない為、紛失する恐れもあり、弁護
士など信頼できる人に保管してもらった方が安全でしょう。この方法では、死後、検認の
手続きが必要です。
○ 届け先:公証役場
○ 必要書類など
① 自筆の遺言書
② 遺言者と証人の実印と印鑑証明書
○ 作成人:遺言者
○ 届出人:遺言者と証人2名以上
○ 届け出る期間:いつでもよい
【秘密証書遺言書の作成方法】
① 遺言者が遺言を書きます。書き方や訂正方法は自筆証書遺言と同じですが、タイプで打ったり代筆しても
らってもかまいません。ただし、署名・押印は自分で。
② 遺言書を封筒に入れ、遺言書に押したものと同じ印鑑で封印します。
③ その封筒を持参して、証人2名以上と公証役場へ行きます。
④ 公証人と証人が立会い、遺言者はその封筒を出し、自分の遺言書であることと、住所・氏名を言います。
(言葉が話せない人はその旨を筆記します)
⑤ 公証人が、遺言者の言ったことと日付を封筒に書きます。
⑥ 遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名・押印して、完成します。
<特別方式>
● 死亡危急時遺言書
急病や事故などで、突然死期が迫った時は、遺言をしたくても自分で字が書けなかったり、公証人を呼ぶ
時間もないものです。こんな場合は死亡危急時遺言という特別方式があります。
○ 届け先:遺言書作成後、家庭裁判所へ
○ 必要書類など:3名以上の証人の署名・押印
○ 届出人:証人の一人か、利害関係人
○ 届け出る時期:遺言した日から20日以内
【死亡危急時遺言の作成方法】
① 遺言者が、証人3名以上の立会いのもとで、遺言の内容を口述します。
② 証人の一人がこれを筆記し、遺言者と証人に読んで聞かせます。
③ 筆記が正確なら、その場で証人全員が署名・押印します。
④ 20日以内に、証人か利害関係人が家庭裁判所へ届け出て、確認を求めます。ただし、遺言作成後、遺言
者が6ヵ月間生存した場合は、死亡危急時遺言書は法律上の効力を失います。